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Artist Interview
From the Noh stage to the contemporary music scene   Talking to innovator Yukihiro Isso
能の音楽から現代へ羽ばたく 革新者・一噌幸弘に聞く
一噌幸弘
一噌幸弘
──バロック音楽の話が出ましたが、能管や篠笛(しのぶえ)など日本の笛で、バロックやロックに挑戦していますし、作曲もする。こうした能の世界からはみ出す活動はいつ頃からですか。
能管は「四拍子(しびょうし)」といわれる大鼓(おおかわ)、小鼓(こつづみ)、太鼓(たいこ)としか演奏しないわけです。小学校でリコーダーを習うと、リコーダーはバイオリンとかチェンバロとかいろんな楽器とアンサンブルをする。能管もほかの楽器と合奏できたらいいなと思うようになりました。でも、音程があいまいな能管は相手の楽器に合わせられない。古典の技術だけでは絶対不可能です。それなら自分で音程をつくっていけばいい。唇の当て方やリコーダーの奏法をヒントに指遣いを工夫したら、音程をコントロールできるようになりました。中学校の終わり頃からジャズやロックを聞くようになって、指し指の技法も使えると思った。世界中の笛を吹いてみたいと思うようになりました。高校時代には友だちとギターやベース、ドラム、キーボードに能管のバンドを組んで、ライブハウスに出るようになりました。同時にバロック音楽もやっていて、バッハやテレマンを吹いていました。いろんな音楽を聞いて、興味がどんどん広がって、自分独自の音楽がしたい、笛が主役になる音楽をやりたいと思って作曲も始めました。最初に作った曲はボツにしちゃったけど。

──1人の人が両立しないような業を幾つも兼ねることを「二足のわらじを履く」と言いますけれど、一噌さんは何足も履いている感じですね。
それは違うなあ。僕は全部で一足だと思っています。フラメンコギターのパコ・デ・ルシアさんはフラメンコの伴奏もするけど、ギター自体を主役にして表舞台に出した人ですよね。いろんなジャンルの人とコラボレーションもする。僕はパコさんと同じ方向を目指しているんです。古典を離れず、クラシックもやるし、現代音楽もやる。そういう感覚です。古典芸能もそういうことをやってできてきたものだと思うんです。能が生まれた時は前衛だったんですから。古典の能管は楽器の可能性の10%も使っていないと思います。僕が音程を取るために習得した技術を能で使えば、笛の存在感がもっと出て、能全体がもっと華やいだ感じになる。実際に僕は古典の舞台でいろいろやっています。やり過ぎると、技術に走っているとか言われますけど。まだまだ、やれることはたくさんあるんです。

──古典以外の活動が多くなると、批判にさらされませんか。
父が心配していましたね。父は2004年の暮れに亡くなりました。最後には、稽古場に僕のコンサートのポスターを貼ってくれるようになりましたが、僕のやっていることを応援していたかというと謎ですね。数年前になりますが、唇がマヒして1年半ほど横笛が吹けなかったことがあります。吹き口をくわえるリコーダーは吹けるんですが、横笛は唇で息を調節して音をつくるので唇がマヒすると吹けません。その時は、能の世界は窮屈なので、治らなかったら縦笛でやっていこうかなと思っていました。マヒが取れて活動を再開したら、喜んでくれる人が能の世界にいっぱいいて、本当にありがたいと思いましたし、自分にとって能管が重要なものだという事実を突き付けられました。

──復帰後、活動領域は広がる一方ですね。複数のバンドを主宰し、楽器も開発する。
これだ、こういう構成でこういう音楽だ、どうしてもやりたいっていう気持ちが出てきて、ドラムとエレクトリックギターと能管だったり、ギターとタブラーと能管だったり、バンドを組んでいったら同時に4つもやることになった(笑)。楽器や演奏家が違えば、同じ曲でも違う曲になる。いろんな発見があるんです。楽器を作るのも作曲したり演奏したりする時に、こんな音が欲しい、あんな音があったらというのがきっかけで、僕の考えを笛にしてくれる製作者の蘭情(らんじょう)さんに出会って実現しました。低音ばかり使う曲を書いた時は、「呂笛(りょぶえ)」を作りました。呂というのは日本の音楽では低い音域のことです。音程を取りやすくするために「のど」がない能管も作りました。古典だけやっていれば、能の笛方は一生に1本か2本の能管しか使いませんが、僕は能でも曲によって柔らかな音がするもの、硬い音のものと能管を使い分けます。この間数えたら、リコーダーや角笛も加えて500本ほど持っていました。

──笛の数だけやりたい音楽があるということですか。
やりたいことは無限です。もちろん、古典は完成された素晴らしいもので、古典を究めていくつもりです。四拍子の中で笛が横線とすると、大鼓や小鼓、太鼓は点。点と横線がどういうタイミングで絡んでいくか、指し指の使い方次第でいろんな変化が起きる。古典でも常に発見があるんです。新作能もやろうと思っています。話を能の形式に当てはめれば、何でも新作能になってしまう。それは替え歌と同じですよね。音楽は四拍子を考えてますが、これまでの新作能とは違う完全に新しいものにするつもりです。僕は音楽家ですから戯曲は書けない。僕の作った曲から戯曲を膨らませて書いてもらう、そういう手順でやってみようと思っています。
能以外では、フランク・ザッパのバンドにいたスティーブ・ヴァイさんと共演してみたいなあ。超絶技巧で変幻自在、すっごいギタリストです。ジョン・マクラフリンさんとも共演したい。ギターが好きで弾くんですが、ギターは笛と違って減衰音ですよね。エレクトリックギターは音に伸びがあって、重音も出る。僕の曲はかなり運動性のあるものが多いから、スピード感のあるギタリストとやるとすごく面白くなると思う。即興演奏のパターンが無限なのと同じで、やりたいことは本当に無限です。
 
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