The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
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川村美紀子
川村美紀子(かわむら・みきこ)
https://twitter.com/#!/KawamuraMikiko
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『へびの心臓』
横浜ダンスコレクション2012EX
(2012年2月12日/横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール)
撮影:ヒロ・オオタケ
view clip『へびの心臓』(YouTube)
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『むく』
ソウル国際ダンスフェスティバル(SIDance)
(2011年10月10日/西江大学校メリーホール)
view clip(YouTube)
『がんばったんだね、お前の中では』
ダンスがみたい!新人シリーズ10
(2012年1月7日/神楽坂die-pratze)
撮影:ヒロ・オオタケ
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渋谷駅で踊る(2011年) Hetero
『じゃこのうた』
NHK教育テレビの番組に応募したビデオ作品

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view clip『じゃこのうた』(YouTube)
Artist Interview
2012.6.6
dance
Dancing a parallel world - What an emerging face of the new generation has to say  
パラレル・ワールドを踊る90年生まれの新鋭とは?  
日本女子体育大学在学中に応募した「横浜ダンスコレクションEX2011」新人振付家部門で最優秀新人賞を受賞した新鋭・川村美紀子。翌年にはソロ作品「がんばったんだね、お前の中では」で「ダンスが見たい!新人シリーズ」新人賞を受賞するなど、ストリートダンスのニューフェースとして独自の存在感を放っている。自らを「空想の世界に遊ぶ少女」と呼び、性や暴力や欲望を秘めたもうひとりの自分を解きはなった世界を表現。2012年に発表した新作『へびの心臓』の話題を中心に、90年生まれの感性に迫った。
[聞き手:石井達朗(舞踊評論家)]

──今年2月に「横浜ダンスコレクションEX2011」新人振付家部門最優秀新人賞受賞者公演として新作『へびの心臓』が発表されました。このソロ作品は、美術・照明・音楽もすべて川村さんのアイデアによるものだったそうですね。ステージがマス目のように12分割されていて、暗闇の中で一つのマスにスポットが当たると川村さんがそのマスに移動して踊る。マス毎に音楽も異なっていて、まったく違う雰囲気をつくるという仕掛けで、構成的にも技術的にも水準の高い、力のある作品でした。タイトルにはどのような意味があるのですか?
 うみへび座という星座があって、その心臓の位置にあるアルファルドという星がひとつだけすごく光ってるんです。周りには暗い星ばっかりしかなくて、アルファルドがすごく寂しそうで。調べてみたら孤独な星と呼ばれているみたいなんですが、そういう“孤独”を表現したいなと思ってタイトルにしました。

──星座に興味があったのですか。
 そんなことはなくて…。作品の説明をしなくちゃいけないから、後付なんですよね、みんな。「孤独をやろうと思ったんです」とか、「星座」とか、何か言わないとみんな納得してくれないから(笑)。私、そんなふうに考えてつくらないんですよね。

──たとえば、マス目に区切った空間を移動しながら踊りますよね、その区画に川村さんが踏み込むと同時に、タッチパネルのようにスクエアの照明がパッとそこを照らす。あれは川村さんのアイデアですよね。
 はい。あれは、「知覚を踏みたいんです」って言って、技術スタッフのみなさんにお願いしました。区画に番号を付けて、パソコンで全部表にして、自分でプランをつくりました。曲も自分でつくって。区画毎に違う曲がかかるんです。表に書いてあります(写真参照)。

──「浜崎あゆみ」と書いてあるのはどんな曲ですか?
 これは、あまりよく知られていないんですが、浜崎あゆみをユーロビート調にアレンジしたミックスCDの曲です。

──「二十三回忌」は?
 これは実家の二十三回忌の法事でお坊さんがお経を読んでいるのを、私が録音したんです。それから「ビート」というのは自分で「ズーン、カッ、ズーン、カッ、ズーン、カッ、タタッ」って打ったやつで、「シンセ」も「バーン、バーン、バーンバン」ってMIDIのキーボードで演奏しました。「ブラックホール」は、駅で街頭演説をしている政治家の話を録音しました。後、「ゆめにっき」は「ゆめにっき」というゲームの音楽です。

──「ショパン」というのは何ですか?
 13才のときにショパン・コンクールで優勝したマウリツィオ・バリーニっていうピアニストのコンサートに行って、すごく感動したんです。帰りにCDも買って、ずーっと聴いていて。今回やっと踊れました。

──ショパン、浜崎あゆみ、そして坊さんの読経などが流れるなか、川村さんがスポットを浴びながらストリート系の動きをし続ける─これはユニークで、かなり面白かったです。そういういろいろな「知覚を踏んで」踊りが生まれてくるということなんですね。では、川村さんのなかでアイデアが踊りになっていくプロセスというのはどういうものなのですか?
 なんて言ったらいいか…ちゃんと整理して話したいんですけど、無意識なんですよね。あんまり寝ないでイメージしたり、曲をつくったりしていると、気づいたら2〜3週間経ってたみたいな…。朦朧としてたらあさってが本番だったていうこともあるんです。没ネタも多くて。この作品でも飛行機の離陸の音も録音したけど使わなかった。映像も結局使わなかった。
 踊りの流れとかは割とエクセルをつかって整理してます。私、テトリスが好きで、誰にも負けない。一人でやれるから。だからそういう感じで組み立てて表にしてます(進行表参照)。

──『へびの心臓』の時は、基本的にはどんな曲とか、どんなサウンドとかのイメージが先にあったのですか?
 というか、すでにこうじゃなきゃダメみたいな絵がポンとあるんです。そうじゃないですか? 悪く言うとそれから抜けられなくて、独特の世界観という言葉で括られちゃったりするんですけど…。
 私、ダンスだけじゃなくて、歌を歌ったり、絵を描いたり、あと映像をつくったりするのも好きで。だから、イメージははっきりあるんだけど、ダンスをつくっているという感じはあんまりないんです。
 スタッフのみなさんと打ち合わせするときは、あちこち動きながら「この四角をポーン」とか言って。「もうわかったから座ってください」って(笑)。

──つくりたい世界がイメージとして浮かんでいるんですね。
「空想の世界に遊ぶ少女」って呼んでください(笑)。なんか、この現実世界って凄いと思うんです。自分がそれほど知っている訳じゃないけど、パラレルワールドがいくつも存在していて、たとえば私が今ウーロン茶を注文しないでストロベリーティーを注文していたら、別の世界になっていたんじゃないかとか。もし、今日ここに来ていなかったら別の世界になっていたんじゃないかとか。そうやって、どんどんどんどん違う世界になって、そこにはまた違う自分がいる…。そういうパラレルワールドにいる私の世界をつくっている感じです。

──横浜ダンスコレクションEXの受賞作品『むく』についても聞かせてください。冒頭、暗闇の中で川村さんが地をはうように歌う『アヴェ・マリア』や、アダルトビデオの女性の喘ぎ声など音のイメージが強烈な作品でした。
 あのときは、最初にヱヴァンゲリヲンか何かの曲で踊りをつくって、後で別の音を当てていったんです。アダルトビデオとか見たことなかったけど、レンタルショップに借りに行きました。ノイズ系の音も使いましたが、それは結構凝って、波長からつくりました。

──川村さんの場合は計算ではなくて無意識にやっているのだと思いますが、喘ぎ声に「アヴェ・マリア」を重ねた部分とノイズ音のコントラストがシャープで、強く印象に残ります。ポルノのサウンドを長々と使っていることからすると、賞を取るのにはマイナスになるかも…とも思ったけれど、あの作品を新人賞に選んだ審査員も慧眼だと思います。それから『むく』も『へびの心臓』もそうですが、暗闇の使い方が特徴的です。結構長い暗転で場面と場面の間を繋いでいきますが、何か狙いがあるのですか? 見ている方は、次にどこに川村さんが移動してどんな動きをして出てきて、どんな音がするのかわからない。長すぎる暗転はふつうはかなり不自然な感じがするものですが、川村さんの作品ではそれが繰り返されるうちに効果的になってきます。
 狙いとかはないですけど…。魔性の女ですから(笑)。

──暗転中も川村さんは踊っているのですか。
 ああ、はい。『へびの心臓』も場所を移動する間は踊っています。

──3月に中野RAFTで行われた「DANCE/NESTmore」でのパフォーマンスは、途中で舞台からいなくなってしまった。それがあまりに長かったので、私はなんらかの理由で公演を途中で止めてしまって、帰ってこないのでは…と思ったくらいです(笑)。山手通りまで走って行ったとか。
 あのときは「短編集」をやろうと思ったんです。いなくなったのは「ある少女、山手通りまで」っていう短編でした。本当に往復したから5分ぐらいかかりました。

──他のダンサーはふつう「ちゃんと自分は外に出て走っていますよ」というのを観客に伝えるために映像を映したりするんだけど、川村さんは舞台上に猿の縫いぐるみだけ残してそのまま出ていってしまった(笑)。
 私がいなくなってからは、猿を見る大人っていう状態になっていたみたいで、猿を見る大人、を見るボクみたいな感じが客席に広がってたって(笑)。

──神楽坂die pratzeの「ダンスがみたい」シリーズでも新人賞を受賞されました。私は残念ながら見逃してしまったのですが、受賞作の『がんばったんだね、お前の中では』について聞かせてください。
 あの作品では、舞台上にラジオが置いてあって、そこからトーク番組が流れているんです。それを聞きながら、私がコンビニのお弁当を食べて、吐き戻してを繰り返してる。ラジオでは、性についてDJのマチコとシンガーソングライターのSAY PLEXが対談してるんですけど、二人とも私がひとりでやりました。マチコがSAY PLEXの名前の由来を質問して、SEX PLAYという名前にしたいと事務所に言ったら怒られて、アルファベットを入れ替えてアナグラムにしたとか。事務所の社長が変人で、シャープペンシルの芯を全部出して半分に折ってもう1回入れ直しているとか。だからSAY PLEXという名前で「折れて」くれたんだとか。そういうの聞きながら食べたり、吐いたり…。

──何分ぐらいの作品ですか?
全部で23分ぐらいですが、食べたり、吐いたりしているのは15分ぐらいです。

──さっきのパラレルワールドの話しで言えば、ちょっと違っていたら、川村さんはSAY PLEXのシンガーになっていたかもしれないし、DJマチコになっていたかもしれない。弁当を吐いていたかもしれない…
 そう、そう、そうなんですよ! 結局そこから外れられないんです、残念ながら。それでみんな微妙にダジャレみたいに繋がっていて。食べるっていうのも性的な行為だし。
 この作品は、die pratzeでやる前に別のところで公演してるんですが、そのときにはずっと左足を殴ってた。公演が3日あったんですごいアザだらけになっちゃって。

──そういえば柱に頭をぶつけていた作品もありましたよね。川村さんの場合は、踊ること、食べること、聞くこと、喋ること、自分の身体が痛むこと、劇場の外に走り出すこともひっくるめて自分の世界なんでしょうね。ところで、パラレルワールドにもうひとりの自分がいると思うようになったのは、いつ頃からですか?
 あ、もうずっとです。両親が共働きだったので、子どもの頃から一人遊びばかりしていて、それが今も続いてる…。習い事も小さい頃からすごくいっぱいやらせてもらって。3才から15才までピアノをやっていたし、書道もずっと習っていて川村紫水という名前をもっています。その他、パソコン、水泳、バスケットもやっていました。塾にも通ってたので、それで1週間のスケジュールが埋まってた。だから、あまり友達と遊ぶことがなくて、今もないですけど…。

──そうした経験があって川村さんの世界というのが、すごくマルチプルなイマジネーションになっているのかもしれませんね。習い事といえば、女性のダンサーの人の多くが経験しているバレエはやらなかったのですか?
 全くやっていません。それで、高校は服飾系に入ってずっとレース編みとかしてたんです。私が編んだレース編みの写真があるので見ますか? これタンポポなんですけど。こういうのを課題でずっとつくっていました。

──すごいですね。これで仕事ができそうです。
 はい。周りの人はデザイナーになるとか、そういう道に進むと思ってたみたいです。でも高校に入ったときに、それまでやっていた習い事を全部やめて、ストリートダンスをやろうと思ったんです。ダンスといえばストリートダンスのことだと思っていたので。新宿にそういう人たちが集まる高層ビルがあって、その前で踊っているお兄さんたちに教えてもらいました。スクールにも通いました。

──ヒップホップ、ロック、ポップ、ハウスなど、色々なテクニックがありますが、何が一番得意ですか?
 一通り習いましたが、得意だったのはポップとか。でも基本的にダンスはあまり上手くないと思います。クラブで踊るようになって、それからいろいろな人に巡り会って日本女子体育大学に舞踊学科があるんだって知って、進学しました。

──そもそも、なぜダンスをやろうと思っていたんですか。
 そうですねえ。3才とか5才とかの頃、コタツの上で「ふしぎ、ふしぎ、大きな音がする、どんどん」っていう踊りをつくったんです。それがルーツかなあ、何かそういうことをやりながら生きてきたような気がします。でも不思議なんですけど、ダンスが好きって思ったことはあまりないんですよね。歌うのは好きだけど。歌手になった方が自分がつくった歌は歌えるし、踊ったりも出来るし、PVもつくれる…。
 私、なんか欲張りなんですよね。子どもの頃、運動会の時に、ガムテープでつくったキノコがみんなに配られたんです。隣のミカちゃんのキノコの方が大きくて、ピンクですごいかわいかったんです。それで自分の小さなキノコと取り替えた。悪気なくそういう欲張りなことができるのって怖いですよね。だから、自分ひとりで、欲をなくそうっていうキャンペーンをやってるんです。
 人間の皮膚の下は水でしょ。まあ骨とか筋肉とか内蔵とかありますが。この水が入ったペットボトルが私の“身体”だとすると、中にホコリとかゴミがたくさん入っていたら、「ウワッ、嫌だな」ってなるじゃないですか。そうなると、見る人も「ウワッ…」ってなると思う。ホコリまみれなところには電気も通らない感じがするでしょ。でもこういう透明な水だったら、パシパシパシって電気も通るだろうなって。だから、自分の身体をそういう状態にして、パシパシパシって電気が通るように「あ、肘が動くな」「肩が動くな」って感じにしたい。欲を無くして、素敵な身体になって見てもらいたいなって思ってるんです。

──川村さんはダンスが下手だと言ってますが、作品を見ているとすごく身体のいろいろな部分が動いてる。背中の筋肉とか、肩とか、腰とか、驚くほどそれぞれの表情をもって動いています。身体の芯から動きが出てきている感じがするのは、そういう思いがあるからなんですね。素敵な身体にするための自分なりのトレーニングというのがあるのですか?
 はい、あります。

──どんなトレーニングなんですか?
 愛しいと思う人とセックスすることですね。テクニックは他の人から学んで、自分の身体のことは自分でちゃんとやろうと思ってます。それで人生に対してあらゆる執着が無くなったら、将来は雑貨屋さんを開こうと思うんです。

──その欲を無くそうというのは、原始仏教の思想に通じる考え方ですよね。生きてれば、存在そのものが嫌なこともあるし、苦痛もあるし。また、生きてれば老いていくし、病もあるし、欲望があって惑わされもする。だから、そういうものから自由になりたい。そんな気持ちが川村さんのどこかにあって、そういう欲や嫌なことを外に吐き出す感覚で作品をつくっているということですか。
 うーん、どうなんでしょう。観客って私の浄化作用に付き合う立会人なのかなと思ったこともあったんですけど、最近は違うんじゃないかと。まだ、わからないことが多すぎますが…。

──ちなみに、これまで自分が影響を受けたなというものはありますか? 音楽とか?
 実は、私すごく耳がよくて。音がすごく気になるんです。だからパチンコ屋の前にいて、自動ドアが開閉するのをずーっと聞いていたこともあります。パチンコ屋って店内で大きな音楽が鳴っているから、ドアがパッと閉まる直前に、最後にちょっとだけ音が大きくなる。それにすごくハマちゃって、ずっと聞いていたら夕方だったということもありました。

──創作するときも音からのインスピレーションが大切ですか。
 はい。情報量はものすごくあると思います。『へびの心臓』で使った浜崎あゆみのユーロビートも、普通だったら絶対にあり得ない部分で踊っていると思います。

──今年の3月に大学を卒業されました。
 はい。出会った方々にとても感謝しています。
 大学が主催している「全国中学校・高等学校ダンスコンクール」に在校生代表として出演した時には、客席の中高生に向かって「いいかお前ら、ダンスなんかやっても意味ねぇんだよ!」とマイクで叫んだり、無関係な人を舞台に上げたり、英雄ポロネーズの曲でポリバケツを鉄の棒でぶっ壊したりして始末書を書いたこともあります。大学では人と一緒にやったので、ちょっと危うかったです。予期できないし、自分が思った範疇じゃなくなるじゃないですか。侵される感じがして、精神的に弱いなと思いました。
 ただ、もう自分の世界で遊ぶのもいいかげんにしろよ、と言われている気もして。まあ、最終目標は雑貨屋さんなんで、それに辿りつくまでに何ができるかなあって感じです。映像をつくるのも好きだから、映画監督もやりたい。
 いろんなことをやりたいです。そうしないと、なんか死んじゃいそうなので。

──フィンランド、ドイツ、オランダ、韓国での公演予定もあると聞いています。ダンストリエンナーレ・トーキョー2012にも出演されるそうですし、これからの活躍を期待しています。
 
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