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2010.6.9
Private-Sector Support for Culture and the Arts  
芸術文化に対する民間支援の現状と傾向─吉本光宏(ニッセイ基礎研究所)  



 日本の芸術文化に対する民間支援もまた、政府機関の文化政策同様、1990年が大きなターニングポイントであった。88年に京都で開催された日仏文化サミットで「文化と企業」がテーマとなり、メセナの考え方が紹介されたことがきっかけとなって、90年に社団法人企業メセナ協議会が設立されたからである。

広告宣伝の色彩の強い協賛から芸術文化の支援へ

 80年代にも、民間企業は大都市で文化施設を開設し、また広告宣伝の効果を期待して、冠公演など文化事業への協賛を積極的に展開していた。80年代末、メセナと相前後するように、米国からフィランソロピーの概念も導入され、民間企業がなぜ芸術文化を支援すべきか、あるいは、わが国の芸術文化政策にとって何が課題か、といったことが活発に議論された。その結果、それまでの広告宣伝色の強い協賛活動への反省が生まれ、社会貢献活動の一環として、あるいは企業市民の一員として民間企業も芸術文化を支援すべきだ、という考え方が普及した。

 その後、主要企業が相次いで企業文化部や社会貢献部などの専門部署を整え、企業内での予算化も進み、メセナ活動は徐々に定着していった。最近では「企業の社会的責任(CSR)」の一環としてメセナ活動に取り組む企業が増えており、企業メセナ協議会が実施した2006年度のメセナ活動実態調査によれば、「メセナ活動をCSRの一環として位置づけている」と回答した企業は65.1%、「今後CSRの一環に含めていく」を合わせると87.0%に上る。同調査によれば、メセナ活動を実施した企業の割合は68.8%に達し、活動費の総額合計は257億円となっている。この額は、文化庁予算の4分の1に相当する規模で、わが国の芸術文化の振興にとって、企業メセナは今やなくてはならない存在だと言える。

 また、80年代後半から90年代は、民間の芸術助成財団が相次いで設立された時代でもあった。芸術文化助成財団協議会に加盟する財団の数は、現在23団体で、そのうち12財団は1990年以降の設立である。残念ながらほとんどの財団の助成対象分野は音楽と美術に限られているが、87年に設立されたセゾン文化財団は、現代演劇と現代舞踊の分野を対象に、ユニークな助成活動を実施してきた。

 この財団の基本方針は、次世代を担うアーティストの創造活動の長期的な支援、資金助成のみでなくスタジオ提供などを含む複合的な支援、そして、芸術活動を支えるインフラストラクチャーの整備・改善のサポート、の3点である。とりわけ、1992年からスタートした舞台芸術団体への複数年の運営支援は、文化庁のアーツプランに先んじて芸術団体の重点支援を打ち出したもので、これまでに33の劇団や舞踊団への支援が行われ、わが国を代表する現代舞台芸術団体の育成に重要な役割を果たしてきた。また同財団は、舞台芸術の国際コラボレーションなど、国際交流事業にも積極的な助成をおこなって、大きな成果をあげている。

景気低迷を経て定着したメセナ活動

 しかし、1989年のバブル経済の崩壊とその後の景気低迷によって、90年末には、民間文化施設が相次いで閉館されたことも見逃せない。99年2月にはセゾン美術館が閉館し、同年4月にはカザルスホールが自主公演の中止を発表。やはり同年11月にはセゾン劇場が閉館し、関西の小劇場演劇の拠点であった扇町ミュージアムスクェアも02年12月に閉館し、東京グローブ座は02年10月に大手芸能プロダクションのジャニーズグループに売却された。最近では、20年間にわたって大阪の現代美術を牽引してきたキリンプラザ大阪が07年10月末で閉館されている。その一方で、Bunkamuraやサントリーホール、東京オペラシティなど、民間企業の運営する文化施設は日本の芸術文化シーンで重要な役割を担い続けており、昨年はサントリー美術館やフジゼロックス・アートスペースが六本木の東京ミッドタウンにオープンし、大きな話題となった。

 そうした中、1990年以降急激に減少していたメセナ予算も95年には増加に転じるなど、バブル経済崩壊後の景気低迷期を経てメセナ活動は着実に定着している。94年には企業メセナ協議会によって、「助成認定制度」が創設された。これは、特定公益増進法人に認定された同協議会を経由して、芸術団体やNPOなどに寄付を行えば、個人や企業が税制上の優遇措置が受けられる制度である。ここ数年、この制度の利用件数、金額とも急速に拡大し、2006年度は206件のプロジェクトに1,515件、12億円の寄付が寄せられるなど、芸術活動への民間資金の提供ルートとして存在価値が高まっている。

メセナ活動の質的変化

 同時に、メセナ活動の内容は質的にも大きく変化してきた。90年初頭は、民間企業と芸術団体やアーティストは、支援する側と支援される側という一方通行の関係が中心で、支援方法も大半が資金援助であった。その後、企業と芸術団体等とのパートナーシップに基づいた活動へと変化し、支援内容もマンパワーをはじめ、場所や製品・サービス、技術・ノウハウなど資金提供以外のものへと多様化している。また、メセナ活動実態調査によれば、最近では様々な文化事業を自主企画・運営する企業が6割近くになっており、その際、劇場やNPOなどの専門機関との共同プロジェクト的な取り組みも増えてきた。

 地域との関係を重視するのも、最近の企業メセナの傾向である。2006年度のメセナ活動実態調査でも、メセナ活動で重視した点として「地域文化の振興」をあげた企業が62.1%と最多だった。具体的な取り組みとしては、アサヒビールが2002年から全国各地のアートNPOや市民グループと協働して実施しているアサヒアートフェスティバルが代表例であろう。この事業では、北海道から沖縄まで全国各地で地域に密着したユニークなアートプロジェクトが実現している。

 2003年に神戸で第1回が開催された全国アートNPOフォーラムも、民間企業の支援で実現し、2007年12月の淡路島での開催で7回を数えるまでになった。その間、開催地は札幌、前橋、青森、別府、大阪と全国各地を巡回しており、その都度、主催団体であるアートNPOリンクと地元のアートNPOとの共同で様々な活動が展開されている。とりわけ、企業メセナを足がかりに、使われなくなった店舗や倉庫などをフォーラムの会場に転用することで、地域におけるアートの新たな活動拠点が形成されている点は注目できる。

 こうした動きは、企業メセナ全体の傾向で、各企業の取り組み内容も次第に多様化しているが、舞台芸術分野の動きとして注目できるものをいくつかピックアップしてみた。
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