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Private-Sector Support for Culture and the Arts
芸術文化に対する民間支援の現状と傾向─吉本光宏(ニッセイ基礎研究所)
舞台芸術の創造活動やインフラを支える民間支援

 例えば、トヨタコレオグラフィーアワードは、次代を担う振付家の発掘・育成を目的に、トヨタ自動車と世田谷パブリックシアターとの提携事業として創設されたものである。一般公募の中から選出された8名の振付家が2日間にわたって公開で作品を上演し、「次代を担う振付家賞」および「オーディエンス賞(各日1名)」が決定される。「次代を担う振付家賞」受賞者には、トヨタ自動車から作品制作費の一部として200万円が贈られ、世田谷パブリックシアターからは、翌年、発表の場としてシアタートラムが提供される。

 2002年にスタートし、5年間で振付家の発掘・育成に大きな成果を残してきたこの事業は、現在2年に1回の開催となったが、公演に対する支援ではないこと、懸賞の対象も公演作品ではなく「振付」であること、そして受賞者には制作経費と公演の機会が提供されることなど、単なる資金提供ではなく、舞台芸術の創造活動を育成しようという点が際だっている。しかも、審査員には海外の劇場ディレクターも招聘されるなど、コンテンポラリーダンスの制作者たちが知恵やネットワークを出し合った点も新しいメセナの形と言えよう。

 同じくダンスの分野ではキリンビールの支援活動も活発である。キリンダンスサポートは朝日舞台芸術賞で選出された現代舞踊の優秀作品の再演と地方公演実現を支援することにより現代舞踊の普及を目的として2002年に創設された 。世田谷パブリックシアターの「二十一世紀舞踊」と題されたコンテンポラリーダンスの公演シリーズをはじめ、各種ダンス公演の支援にも積極的である。

 アサヒビールも舞台芸術の支援を積極的に行っている企業のひとつ。独創的で斬新な芸術活動、チャレンジ精神あふれる気鋭の芸術家への支援を行うというのが同社のメセナの基本方針で、演劇や舞踊の分野でも様々な支援を行って、大きな成果をあげている。

 また、最近の傾向のひとつに、複数の企業による共同メセナの取り組みがある。先に紹介した全国アートNPOフォーラムもその代表例であるが、舞台芸術の国際交流で重要な役割を果たしている東京国際芸術祭は、アサヒビール、資生堂、トヨタ自動車、松下電器産業など複数の民間企業が、主催機関のNPOを長期的に支援することで継続的な開催が可能となっている。

 地域に密着した舞台芸術系のメセナとしては、長野善光寺の表参道沿いに「北野文芸座」を開設した北野建設、松本市で廃業されていた映画館ピカデリーを買い受けて「ピカデリーホール」という劇場として再生させた信濃毎日新聞松本専売所、山梨白州で舞踏家の田中眠がプロデュースする芝居小屋「桜座」の復活と運営を支援するタンザワ(アクセサリーの製造・販売業)などが代表例である。

 このように、1990年前後に公演や展覧会への資金的な協賛を中心に活発化した芸術文化への民間支援は、この20年近くの間に大きな変貌を遂げてきた。自社のCSRの一環として企業メセナを積極的に位置づけ、地域に密着した芸術文化活動への支援を重視する傾向が強まる一方で、舞台芸術の創造活動を支える支援、あるいは、芸術団体や劇場、アートNPOなどとの共同プロジェクトも活発になっている。その背景には、企業や財団のメセナ担当者が、それまでの実績や経験に基づき、わが国の芸術文化を振興するには、何をどのように支援すべきか、戦略的、長期的な視点から検討するようになってきた点を見逃せない。舞台芸術の国際交流の面でも、民間企業や財団の支援の果たす役割は、今後ますます大きくなっていくだろう。
 
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