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見えざるモノの生き残り
イキウメ
『見えざるモノの生き残り』
(2009年12月/紀伊國屋ホールほか)
撮影:田中亜紀
Data
[初演年]2009年
[上演時間]1時間50分
[幕・場面数]1幕11場
[キャスト数]8人(男6・女2)
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2010.1.15
Miezarumono no Ikinokori (Survivors among the Invisible Ones) by Tomohiro Maekawa 
前川知大『見えざるモノの生き残り』 
 5、6歳の子どもの姿になって現れる座敷や蔵に棲み着く守り神「座敷童子」。いたずら好きで、座敷童子が棲みついた家は栄え、いなくなると衰退すると言われ、日本の民間伝承として親しまれてきた座敷童子をモチーフにした作品。迎え入れてくれた人や家族と共同生活をしながら「幸せ」を運ぶことを生業とする、現代版座敷童子(ざしきわらし)=家守(やもり)たち。彼らの目を通し、現代日本で生きる人間の孤独や欲望をあらわにし、幸せの本質とは何かを問いかけていく。


 雨がそぼ降る雑踏。急ぎ足で通り過ぎる人々の中、一人、傘も差さずぼんやりと佇む青年がいる。
人の流れが引くと、そこには青年を見つめる男・伽那蔵(かなくら)が立っていた。青年に向かって唐突に語りかけ、頬を殴る伽那蔵。はじめは無反応だった青年は、伽那蔵の暴力で目覚めたかのように意識と言葉を取り戻す。が、青年には記憶がなかった。七節(ななふし)と名づけられた青年は、伽那蔵と行動を共にする。

 伽那蔵も七節も他の人からは見えていない。二人は電車の中で会った伽那蔵の仲間、日暮(ひぐらし)とともに彼らがたまり場にしている新宿駅の広場に向かう。伽那蔵、日暮たちは他人の家に住み込み、その家を守る「家守」と呼ばれる存在で、七節は家守になるためスカウトされたのだった。七節たちを見つけ、仲間の太鼓打(たいこうち)もやって来る。
 伽那蔵は七節に家守になるための研修をはじめる。住み込む家の家族が全員そろっている時に訪ね、お茶を一杯ご馳走してもらうこと、そして家守の存在を信じてもらうことが契約成立の条件。他人を容易には信じない現代社会において、家守が受け入れてもらうのは困難な仕事だ。伽那蔵は七節の参考にと、太鼓打に成功例を話させる。太鼓打は梅沢鉄彦・郁子夫妻について話し始め、太鼓打の記憶が再現される。

 太鼓打は夫婦喧嘩に巻き込まれながらも、お茶をご馳走になることに成功し、梅沢家に落ち着く。鉄彦は会社を立ち上げたばかりだった。太鼓打の存在は夫婦の生活の張りになり、仕事も順調に進む。
 やがて夫妻の哀しい過去も明らかになる。彼らは幼い息子を海水浴の事故で亡くしていた。太鼓打を息子代わりにする郁子と、その振る舞いに苛立つ鉄彦。郁子は太鼓打に「死んだ息子に会わせて」と泣きつく。家守への願い事は契約違反なのだが、結局太鼓打はその後も梅沢家に留まり続けた。

 太鼓打の話を聞くうちに、七節の記憶が甦り、今度は七節の物語が始まる。彼の以前の名前は竹男(たけお)。6歳で父に蒸発され、18歳で母親にも捨てられていた。別れ際、「父がいる会社」と母から渡されたチラシは便利屋の広告で、竹男はその会社を訪ね、拾われる。先輩の矢口九作(やぐちきゅうさく)と向かった最初の仕事は、新興宗教にハマった両親の借金を背負う若い女・持田喜美(もちだきみ)からの取立てだ。
 喜美は九作がよく行くファミリーレストランでアルバイトをしている。後をつけ、家に乗り込む九作と竹男。初めて知る両親の借金に驚きながらも、喜美は働いて自分で返すという。これは両親が自分に与えた試練であり、乗り越えることで自分は成長するのだ、と。しかも彼女は時折、見えない誰かがいるかのような奇妙な独り言を口にする。
 喜美の発言が偽善的だと怒る九作は、状況を思い知らせろと竹男に彼女を襲わせる。室内で激しくもみ合う喜美と竹男。だが突然何か強い衝撃を受けたように、竹男は床にくずれ落ちる。

 竹男は死んだのだ。自分の死を意外なほど素直に納得し、家守・七節としての復活に前向きな竹男。家守の仕事は興味深いが「人を幸せにすること」の意味がよくわからないという竹男に、太鼓打は中断していた梅沢夫妻のその後を語り出す。

 結局、太鼓打は梅沢家で家守としての「満期」を迎えた。「満期」は、家守が「この家にずっと居続けたい」と満足したときにやってきて、期間は決まっていないという。満期になると、自分の代わりに「幸せな人には見える」という羽根状の生き物・タマシロ(別名・ケセランパサラン)を置いて家守は去る。
 名残惜しげに太鼓打を見送る夫妻。彼らは息子の死を受け入れ、二人で住むための家に転居する。だが、その後の二人は仕事の不調に見舞われ、かつての充足を失ってしまう。「絶好調のときはいつも、『自分がこんなに上手くいくわけがない』と思っていた」とこぼす鉄彦。励ます郁子に彼は、実はだいぶ前からタマシロが見えなくなっていたと告白する。だがそれは郁子も同じことだった。泣きながらも、改めて二人で生きていこうと誓う二人。そのとき、見えなくなっていたはずのタマシロが眼前に現れる。心強くした夫妻は、タマシロを家に留めず、風のままに外に放つことを選ぶ。

 太鼓打の話が終わり、今度は日暮が「持田の部屋には実は自分がいたのだ」と、竹男の死後の出来事を語り出す。
 身寄りのない竹男の死は便利屋の社長・佐久間の意向もあり、3人だけの秘密となった。口止め料がわりに、九作は喜美の借金整理を手伝うことに。頑なに「自分で返す」という喜美だったが、実は親にだまされて捨てられたことがわかり、ようやく現実に直面して九作と心を通わせるようになる。
 ある日、九作が「ヘンなオッサンの姿が見えた気がする」と言い出す。
 その翌日、日暮は持田家を去った。日暮の姿が九作に見えたのは、彼が喜美の家族になる予兆だと感じ、彼女はもう大丈夫だと思えたから、と。

 研修を終了した七節の頬にはとめどない涙が…。何か深く大きな想いが、胸の底から溢れ出しているのように。

 やがて、笑顔で旅立っていった七節の背に、伽那蔵はかつて家守を務め上げて福の神になった米月(こめつき)の姿を重ね、日暮もそれに同意する。「許してくれるかな。僕は彼の才能に引かれたということで」。最後に、日暮は伽那蔵にそっと秘密を耳打ちする…。

作者プロフィール:[生年]1974
1974年生まれ、新潟県柏崎市出身。2003年に旗揚げした劇団「イキウメ」を主宰し、作・演出を手がける。身近な生活と隣り合わせに異界が現れるスリリングな世界観を特徴とする。劇団名は「生きながら彼岸を覗く」という作劇コンセプトに由来。彼岸から現実を逆照射するセンス・オブ・ワンダーを描き、注目を集めている。主な作品として『散歩する侵略者』『関数ドミノ』、『図書館的人生』、『表と裏と、その向こう』、『奇ッ怪〜小泉八雲に聞いた話〜』、『狭き門より入れ』など。小説『散歩する侵略者』やコミックの原作『リヴィングストン(漫画:片岡人生)』を発表するなど、他ジャンルでの活躍も期待されている。『表と裏と、その向こう』により、第16回読売演劇大賞優秀作品賞、同作と『図書館的人生vol.2 盾と矛』により同賞優秀演出家賞受賞、『関数ドミノ』『奇ッ怪』により第44回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。
http://www.ikiume.jp/
 
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