村川拓也(むらかわ・たくや)
演出家・映像作家。1982年生まれ。京都市在住。ドキュメンタリーやフィールドワークの手法を用いた作品を、映像・演劇・美術など様々な分野で発表し、国内外の芸術祭、劇場より招聘を受ける。1人のキャストとその日の観客1人を舞台上に招き、介護する/されることを舞台上に再現する『ツァイトゲーバー』(2011)は国内外で再演され、2014年にはHAU Hebbel am Ufer(ベルリン)の「Japan Syndrome Art and Politics after Fukushima」にて上演された。村川から事前に送られてきた手紙(指示書)に沿って舞台上の出演者が行動する『エヴェレットゴーストラインズ』(2013)などの作品群は、虚構と現実の境界の狭間で表現の方法論を問い直し、現実世界での生のリアリティとは何かを模索する。2016年には東アジア文化交流使(文化庁)として中国・上海/北京に滞在しワークショップを行う。近作、『インディペンデント リビング』はKYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2017で初演し、テアターフォルメン(ブラウンシュバイク、2018)に招聘された。2014-2019年度セゾン文化財団ジュニア・フェロー。京都造形芸術大学舞台芸術学科 非常勤講師。
──村川さんの作品を別の視点で見ると、コミュニケーションの問題が共通しているのではないかと思います。『ツァイトゲーバー』でも、介助者と被介助者がどのようにコミュニケーションするかが主題化されていますし、『エヴェレットゴーストラインズ』でも、それが相手に伝わったかどうかの不確かさも含めて、手紙を出すという行為が扱われています。それが前景化した村川さんの作品には、あまり語られていませんが、『羅生門』と日中韓プロジェクトの中で偶然生まれた『Fools speak while wise men listen』があります。
そういえば両方とも反動で出てきた感じがします。『羅生門』は、芥川龍之介の作品をテーマとして与えられていたのですが、作者や小説を解釈して、現代に落とし込むようなことはしたくなかった。小説には全く触らない、構成もしない。で、どうするか。その時に思ったのが、外国人をぶつけてみるということでした。なのでタイトルは何でもよくて、ドイツ人で日本語が分からない女性と日本人の男性が身振り手振りを使ってコミュニケーションできたりできなかったりするものになった。
『Fools〜』も反動で、東アジア文化交流使に選抜されて中国に派遣されたのですが、「政治的・歴史的に葛藤があっても、文化であれば相互理解できる」といったメッセージを内面化するのが嫌でした。現実には、他のアジアの国の人たちに対して差別的な言動をしているのを日常で目にするのに、文化の名の元に分かり合ったようなフリはしたくないと思いました。敢えてあまり見たくない聞きたくない日本人と中国人の現状、それはお互いに差別的だと言っていいと思いますが、それを隠さずにそのままダイレクトに見せたいという気持ちがありました。